発育の段階

★発育段階
  栄養週期栽培では、発育の段階に注意を払っています。このコーナーでは、発育の段階とそれに関連する事柄を取り上げます。

  発育段階とは、生物の形態、生理、生態などが質的に異なる発育過程を区分したものです(八杉他編1998)。作物と人間の生活史を人間と比較してみると、人間では胎児、乳児、幼年、少年、青年、壮年、老年というような発育の段階があります。一方、作物では胚植物、実生、幼苗、壮苗、開花、結実、成熟等のような発育の段階がみられます。栄養週期栽培では、作物を発育段階に応じた適切な栄養状態に誘導するように施肥をはじめ適切な対処をしていきます。

★栄養生長期、生殖生長期、交代期、
  栄養週期栽培で区分される発育段階には、大きく分けると栄養生長期、生殖生長期そして交代期があります。

○栄養生長期
  栄養生長期というのは、人間でいえば子供時代から青年期に相当し自分の体を完成させる期間です。作物であれば、葉を拡げ、重さが増し、将来の生殖に向けて体の基礎を作る時期です。また、栄養生長期は枝葉を生長させ、光合成で生産された炭水化物が消費されていく過程でもあります。
  しかし、枝葉が充実して同化機能(注:同化とは生物が自分に必要な物質を体内で合成する働き)が強化されてくると、次第に同化物質である炭水化物が多くなり体内に貯えはじめます。この同化物質を貯えはじめた時期が生殖生長への入り口となります。

○生殖生長期
  作物の栄養生長が終わりに近づいて体が成熟してくると、葉が生産する炭水化物の量が、体内で生成する窒素化合物の量より優るようになり生長が抑えられて、生殖器官の発生を促します。このような時期を生殖生長期と呼んでいます。生殖生長に入るとやがて花が開き、受精が行われ、種子が生じ、そしてその種子が生長します。

○交代期
  大井上康氏は、栄養生長から生殖生長へ変わるとき、その間に過渡期とも言うべき時期があると考えました。そしてこの時期を交代期と名づけました。交代期は、栄養生長が中心となる時期から、生殖生長が中心となる時期へ入れ替わる過渡的な段階です。
  交代期について、大井上康氏(大井上康 2011)は、人間にたとえて次のように記しています。

  「人間で言えば、おおよそ14才位から20才位までは、この過度期にあり、この期間の人間は年々大人に向かって進んではいるが、体の生長も続き、子供らしさを残しながら、同時に子供から抜け出そうしている。作物も同様に栄養生長と生殖生長との入れかわりの期間があり、著者はこれを交代期とよぶことにした。技術的にこれを非常に重要視している。」

  なお、大井上康氏が交代期を重要視するのは、栄養生長と生殖生長とが矛盾する関係にあると思い立ったためです。一方に有利な条件が他方に不利な結果をもたらすと考えました。この相反する生長の仕方は、好適な環境条件も異なることを意味します。このため肥料のような栽培の条件は、交代期を境として変更しなければならないという考え方です。このような見方は栄養週期理論の特徴の一つとなっています。
  稲を例にした交代期の具体的な説明(大井上2011)では、交代期に入ると体内の窒素に対する炭水化物の割合は急速に高まること、葉や茎の中のカロチンの量が増加すること、茎がいちじるしく固くなること、地平面付近の茎は扁平形から円筒形に変わることが書かれています。これで、外観からも判定できるという。また、条件によって異なりますが、概ね稲の交代期は出穂前45日頃に始まり、前半の15日くらいまでを前期、その後の10日を中期、その後出穂までを後期と呼んでいます。出穂とともに交代期はおわり、生殖生長期へ入るものと考えています。

○発育の仕方の違い
  なお、栄養生長期、交代期、生殖生長期などの現れ方は、作物によっていくつかのパターンがあって、上記のように単純でないものもあります。
  イネやムギなどの一年生作物では、発育の段階は順を追って進行します。しかし、トマトやナスのような作物では、栄養生長と生殖生長が同時に進行します。果樹では、季節の進行に応じて栄養生長期、交代期、生殖生長が見られますが、毎年繰り返されるため、全体の生活史の中では、栄養生長、生殖生長が繰り返し現れることになります。しかし、一年でみれば栄養生長と生殖生長とを区別して見ることができます。
  栄養週期栽培ではこのような作物の特徴の違いを踏まえて、栽培管理を行っていきます。