種有りブドウが美味しい!
=「サルでもわかる」種有りブドウと種無しブドウの違い=

 
理農技術編集部
2021年9月

■はじめに
 NHKが毎週水曜日の夜7時半から総合テレビで放送している「ガッテン!」という番組があります。その2021年9月15日の放送で、ブドウが特集されていました。対象としていたのは大粒の生食用ブドウで、テーマは「ブドウ3大ミステリー 知ればおいしさ別次元!」ということでした。興味深い内容が含まれていたので取り上げました。
 
■3つの話題
 以下の3つの話題が紹介されていました。
 

  • ブドウをより甘く美しくする 日本ならではの工夫とは?
  • 皮がつるんとむけて しかも甘い!?農家も驚く“奇跡のむき方”
  • 日本で誕生!食べやすい“種なし”ブドウ ところが産地では“種あり”の方が人気!?

 
 一番目の「日本ならではの工夫」は、摘粒のことで、ブドウ農家がこまめに摘粒することによって形が美しくかつ甘くなると説明されていました。
 二番目の「奇跡のむき方」は、食べ方の話で、皮をお尻側からむくとうまくむけ、美味しく食べられるという話でした。
 
■種有りと種無しブドウの話題
 最も長い時間を割いていたのは、三番目の「種有りブドウと種無しブドウ」の話でした。
 都市の消費者は、ほとんどの人が種無しが好きといっているのに対し、生産地の直売所に買いに来る人では、多くが種有りブドウを選んでいることが、対照的に映像で示されていました。
 そして、種無し、種有りブドウの両方を生産している方の、5才の男の子と2才の小さな女の子に、それぞれ種有りと種無しブドウ(おそらく巨峰)を差し出して選ばせるという実験を行ったところ、二人とも種有りを選びました。さらに、日光サル軍団の2頭のニホンザルにも同様の実験を行ったところ、同じように迷うことなく種有りブドウを選んでいました。この時、「ブドウはタネを動物に食べさせるためにあまい実をつけているのだ」というブドウの生存のための戦略として解説されていました。
 次いで、番組では糖度計を使って種有りのほうが種無しより甘いことを示していました。番組のパネラーは試食して、全員その違いに驚いていました。この時の種無しの糖度が18.5度、種有りが21.2度でした。実際は、種無しでももっと甘いものもありますし、種有りでも甘くないものもあります。この時、利用したブドウがこのような糖度であったのであり、ひとつのサンプルだけでは本来結論づけることはできないはずです。ただし、番組の制作スタッフはそのような傾向があるとの情報を踏まえて、番組制作を行ったものと思います。傾向としては間違っていないと思います。
 番組では、このような甘さの違いは、タネが甘味の物質を引き込む役割があると説明していました。このことは、近年、学術的な論文でも論じられています(藤島他2012)。
 なお、番組では話題になっていませんでしたが、小さな子供たちやニホンザルが種有りを選んだのは、甘さだけなのか?という気がします。ニホンザルは最初から種有りブドウに手を伸ばしていました。果粒を半分に切ってあったので、タネが見えておりサルはタネの存在を確認して選んだのか?あるいは種無しブドウが有する「臭気」に影響されたのか?興味がわきます。
 
■おわりに
 こうして、種有りブドウを高く評価する番組が、ゴールデンタイムに放送されました。番組では、「様々な食べかたを楽しんでください」とまとめていました。さて、消費者の行動に変化が生まれるのでしょうか?
 当サイトでは、大粒の生食ブドウの種無しブドウ栽培について、そのなりたちや栽培上の特性を、種有りブドウ栽培の視点から多少批判的に取り上げています(栄養週期巨峰栽培からみた大粒種無しブドウ栽培)。興味のある方は、そちらをご覧いただければと思います。
 
《参考資料》
・藤島宏之・松田和也・牛島孝策・矢羽田第二郎・白石美樹夫・千々和浩幸. 2012. 「ブドウ‘巨峰’のジベレリン処理果実と無処理果実の品質の差異」. 園芸学研究, 11巻(3号): 405-410.
・NHK総合テレビ.「ガッテン」.2021年9月15日(水)午後7時30分~放送