栄養週期巨峰栽培から見た最近の大粒種無しブドウ栽培

■はじめに
  巨峰ブドウの栽培方法に眼をむけると、栄養週期栽培と一般的な栽培との視点の違いが見えてきます。そこで、巨峰ブドウの特性、栄養週期栽培によるブドウ栽培に眼をやりながら、最近流行の大粒種無しブドウ栽培について考えてみます。

■巨峰の特徴
  巨峰は、「石原早生」というブドウと「センテニアル」というブドウを交配して育成されました。母親の石原早生はキャンベル・ア-リー(2倍体欧米雑種)の4倍体の変異種で、父親のセンテニアルはロザキの4倍体変異種です。この4倍体どうしを交配することによって、4倍体の巨峰が生まれました。このような育種法は、結果的に大きく日本のブドウ育種の方向を決めることになる画期的な方法だったといいます(植原・山本2015)。
  しかし、この4倍体のブドウは樹勢が特に強く、枝が伸びやすい性質を持っていました。4倍体のブドウの樹勢の強さは、花振い(花が多数咲いても実がつきにくい現象で、ブドウによくみられる)になりやすく着粒が不安定になりやすい一因と考えられています。巨峰の場合は、「初期の巨峰と品種登録の拒絶、そしてその後」でも示しましたように、それが品種登録を拒絶された理由ともなりました。
  巨峰は、その後、巨峰群と呼ばれる様々な4倍体ブドウを生み出しました。ピオーネ、藤稔(ふじみのり)、安芸クイーンなど様々な4倍体の欧米雑種が育成されました。それらは、巨峰同様、強い樹勢を示しました
  現在、ブドウの中で、シャインマスカットが人気となり、その栽培面積も増えています。このシャインマスカットは2倍体のブドウですが、これも樹勢が強くその樹勢をコントロールすることが、栽培のポイントともなっています。

■栄養週期栽培による巨峰栽培
  巨峰のような4倍体のブドウに限らず、2倍体の品種でも樹勢が強いものがあり、ブドウの栽培において樹勢の適切な管理が、栽培する上で重要な事項となります。
  もちろんブドウだけではなくあらゆる果樹、作物も同様で、栄養生長をどうコントロールするかに配慮する視点が栄養週期栽培の特徴でもあります。栄養週期栽培では、ブドウに限らず果樹栽培においてお礼肥えや元肥による即効性の窒素を与えなかったり、与える場合でも極力少なくしたりします。また、無肥料出発という考え方がありますが、これは、一年生の作物の播種時に適用しますが、果樹においては春先の芽が出る時期にも同じような見方をします。穀類や野菜の出芽の時期、果樹の萌芽の時期、いずれも無肥料出発の考え方から即効性の窒素肥料を控えます。また、樹勢を落ち着かせるために、冬季の剪定においてはあまり枝を切らない剪定(弱剪定または長梢剪定といいます)を行い、春の枝の伸長を制御します。ブドウは枝を強く切る剪定(強剪定または短梢剪定といいます)を行うと、春先以降に伸長量が大きく樹勢が強くなります。これは、窒素肥料を多く与えた時と同じような現象を引き起こします。このように様々な対処をして、春先からの栄養生長時の樹勢をうまくコントロールしていきます。巨峰の場合は、特に枝の伸長が強いので、その点に十分配慮して、栽培体系を築いていきました。日本はモンスーン型気候で春から秋にかけての雨が多いことから、枝の伸長が顕著になりやすいので、その点は徹底していったということになります(恒屋2002)。

■各県で指導されている栽培方法 
  一方、一般的な農法においては、果樹栽培において、果実が実った後にお礼肥え、秋から冬にかけて元肥を与え、窒素肥料の投入は普通になっています。その必要性の根拠は、お礼肥えの場合は疲れた体を休ませるということと翌春にいち早く生長を促すこと、元肥も翌春の春先にいち早く生長を促し、葉を展開させ葉面積を増やし、光合成を活発にさせることを期待しているようです。
  しかし、このような手法は、特に巨峰のような枝の伸長が著しいブドウでは、栄養生長を活発にしすぎる傾向が生まれ、これが花振いをもたらすということになりました。栄養週期栽培以外でも、栄養週期栽培と同じように枝の旺盛な伸長を抑制することが必要であるとされていますが、お礼肥えや元肥を無くすところまではいっていないことが多いようです。
  なお、中国の巨峰に花振いがほとんどないこと、実の成熟がしやすいことが報告されています(王他1996)。その報告に出ている写真を見ると、枝の伸長が抑えられており、栄養週期栽培がめざす発育の姿と、かなり近いものとなっています。この地域は砂漠地帯に近い乾燥地帯ですから、日本のモンスーン気候と違って生育期間中の雨が少なく、かつ晴れが多くなっており、気候の影響があると思われますが、枝の伸長が押さえられた発育の姿が巨峰の果実の成熟に効果があるということのヒントとなっています。

■巨峰の発育制御のための薬品の利用
  さて、そのような状況の中で、慣行的な栽培の中では、ビーナインという薬品が使われました。このビーナインは商品名で、物質はダミノジッドという植物生長調節剤です。生長ホルモンであるジベレリンの合成に関わる酵素の活動を阻害する効果があると言われています。導入当初は樹勢の抑制や花振いに効果を発揮して、長野を中心に大量に使われ、長野の巨峰栽培を全国一に押し上げるほど効果を発揮しました。しかし、このビーナインは後に発がん性があるとして、果樹への利用はできなくなります(花卉には今も使われています)。ビーナインは使われなくなりますが、現在は枝の伸長を抑制する効果があるその他の植物生長調節剤が使われています。
  また、巨峰の種無し化が行われるようになり、種無しブドウに利用されていたジベレリンが巨峰に対して利用されるようになりました。この技術は、各地に普及していきました。ジベレリンは種無し効果だけでなく、果粒の伸長、さらには花振るい防止にも効果も発揮しました。これにより、これまでより強い剪定でも作りやすくなりました。弱剪定による樹勢の制御は、なかなか高度な技術を必要としていたのですが、ジベレリンの利用により巨峰の栽培がしやすくなり、さらに巨峰が普及していきました。このような種無し技術は、他の大粒種でもどんどん利用されていきました。ピオーネなどは、ほぼすべてがこのような方法で種無し栽培されています。

■様々な植物生長調節剤
  特に、ブドウ栽培で使用されている農薬としての植物生長調節剤を以下に掲げました。この他にもたくさんあります。( )内は製品名です。なお、殺虫剤や除草剤だけでなく、このような植物生長調節剤も農薬に含まれています。

〇開花・着果・肥大促進剤
    ジベレリン(ジベレリン)
    ホルクロルフェニュロン(フルメット)
〇伸長抑制剤(矮化剤)
    ダミノジド (ビーナイン)
    メピコートクロリド(フラスター)
〇その他
    アブシジン酸(アブシジン酸)
    エチレン(エスレル)

  これらは、工業的に製造されたものですが、植物の体内にもともと存在する植物ホルモンを人工的に製造したものもあります。たとえば、ジベレリンはジベレリン、フルメットはサイトカインニン、エスレルはエチレン状の物質です。
  植物ホルモンには、かつてはオーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシシン酸、エチレンが知られていましたが、近年、他にも植物の生長を調節する機能がある物質が確認されています。ただし、これらの機能は多様で、まだ科学的にわかっていないことも多くあるようです。

■薬品により発育をコントロールするブドウ栽培
  このような薬品による発育のコントロールが、特に大粒ブドウ栽培において一般的になっています。
  はじめは、巨峰の発育を制御するために使われたダミノジッド(商品名:ビーナイン)がありました。その後、ダミノジットが使えなくなるとメピコートクロリド(商品名:フラスター)などの植物生長調節剤が利用されています。
  さらに、種無ブドウ栽培ではジベレリンの利用により、高い技術がなくても大粒ブドウが作りやすくなっていきました。消費者はタネがない方が食べすいとして種無しブドウを好み、また、生産者は高度な技術を必要としない種無し化を行いました。また、各県の果樹試験場などの試験機関は、こぞって種無しに向いた新たな品種の開発に力をいれました。
  このようにして、大粒種無しブドウがどんどん増えていきます。近年、人気の高いシャインマスカットにそのような技術が結実し、巨峰の次の時代を担うブドウのような位置づけになっています。シャインマスカットも樹勢が強く花振いが生じやすいのでその対策のため、また種無しにするため、上記の植物生長調節剤を用いて栽培されています。種無しにする上でジベレリンだけでは完全にタネがなくならない場合もあり、フルメット、ストレプトマイシンなどの利用が行われています。このような薬品の利用技術に関する論文はたくさん出ています。人気の種無しシャインマスカットの栽培はこのように薬品によってもたらされています。

■おわりに
  巨峰の栽培方法について、栄養週期栽培と慣行的な栽培を比較して見てきたことでわかるように、慣行的な栽培では、ブドウの発育を薬品によって管理する栽培技術を作り上げていったことが見えてきます。
  栄養週期栽培を長年やってきた方でも、現在このような技術を使って、「種無し、大粒、皮ごと食べられる」ブドウを作っている方が増えています。これは、消費者の要望に応えるため、そして生活のためです。しかし、もともと栄養週期栽培では、作物の発育は、その植物が持っている能力を生かしながら誘導していこうという立場です。薬品によって発育を制御し、ましてタネまで薬品でなくしてしまうということに抵抗感を抱く人は、日本巨峰会の会員の方の中には今でもいます。
  このような薬品による発育の制御を前提とした栽培方法の開発を、躊躇なく行っている人たちの心の奥には、作物を機械、物質としてとらえる視点があるように感じられます。きれいに割り切れるわけではありませんが、栄養週期栽培では作物はあくまで生き物として見ようとします。ここにはやはり違いがあります(「栄養週期栽培の作物観参照)。

≪参考資料≫
・王 世平・劉 効義・岡本五郎. 1996. 「中国・寧夏のブドウ‘巨峰’の良好な有核結実,胚珠発育と花粉管成長」. 園芸学会雑誌, 65巻(1号): 27–32.
・恒屋棟介. 2002. 「ブドウ・巨峰事典 [POD版] 」. 博友社.
・植原宣紘・山本 博. 「日本のブドウハンドブック」. イカロス出版.