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『ブドウ・巨峰事典』

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『ブドウ・巨峰事典』


ブドウと巨峰に関する専門事典です。

「巨峰ブドウ栽培の新技術」「ブドウ巨峰の発育診断」とともに恒屋棟介氏のブドウ書3部作の一冊です。3作とも絶版になりましたが、本書についてはPOD版(書籍を電子データ化し注文に応じて書籍化する仕組みのことです)として現在も出版されています。大きな書店なら今でも販売されています。日本巨峰会でも取り扱っています。この本は、上記3部作の中では最も新しいもので、栄養週期理論に基づくブドウ栽培の集大成といってよいと思います。また、事典ということで、項目毎に見開きで解説するという形式をとっていますので、辞書的な利用にも向いています。
内容的には、ブドウの成熟と熟成の問題を中心課題と考え、この点から改めて見直そうとしたのが本書です。 生食用大粒ブドウと醸造用小粒ブドウとは「品質で決定する」という点で共通性をもっています。「栄養週期理論」的な栽培方法、管理方法、施肥方法などについて詳しく解説しています。本文中には、ブドウ園を開園する際のノウハウなどにも触れています。
ブドウを栽培している人、ブドウを加工販売している人、ブドウ園を開園したい人には参考になると思います。

目次

第1章 ブドウの文化史
 ・ブドウ栽培の発生
 ・ヨーロッパへの伝播
 ・中~東ヨーロッパへの伝播
 ・東アジアへの移動
 ・日本への伝承
 ・新大陸移動
 ・南アフリカ、豪州への移動
 ・世界の中の日本ブドウ

第2章 ブドウの種と品種
 ・ブドウの発見
 ・ブドウ属分類
 ・ユーラシア大陸のブドウ
 ・アメリカ大陸のブドウ
 ・アメリカ大陸の生食用ブドウ
 ・輸入品種の改良
 ・ブドウ巨峰の形質濃度
 ・ブドウ巨峰の倍数性
 ・品種の将来性

第3章 ブドウの発育週期と休眠生理
 ・歴史的発育観
 ・発育と生長、分化
 ・ラセン型・直線型発育
 ・1年の発育週期
 ・1年週期と定期位相
 ・休眠生理
 ・気候と休眠
 ・露地とハウスの休眠

第4章 ブドウの発育生理と発育形態
 ・萌芽生理
 ・生長生理
 ・開花生理
 ・着色生理
 ・成熟生理
 ・基本生長と補填生長
 ・果実の生長
 ・根群の生長
 ・生長と成熟
 ・消費生長のズレ
 ・消費から蓄積
 ・蓄積生長の障害
 ・ブドウの葉形と葉質(1)
 ・ブドウの葉形と葉質(2)
 ・ブドウの枝形と枝質(1)
 ・ブドウの枝形と枝質(2)
 ・ブドウの花芽とその質
 ・ブドウの花穂の形と質
 ・ブドウの花形とその質
 ・ブドウの果形と品質(1)
 ・ブドウの果形と品質(2)

第5章 ブドウの発育とC/N関係
 ・C/N関係説
 ・ドブヅルとカリズル
 ・C/Nm値
 ・生長型、分化型、成熟型
 ・野生ブドウのC/Nm
 ・栽培ブドウのC/Nm
 ・緑梢の質
 ・開花とC/Nm
 ・環境とC/Nm

第6章 ブドウと植物ホルモン
 ・ホルモン
 ・オーキシン
 ・ジベレリン(1)
 ・ジベレリン(2)
 ・サイトカイニン
 ・エチレン
 ・アプシジン
 ・Bナイン(1)
 ・Bナイン(2)
 ・Bナイン(3)
 ・植物ホルモン応用の一面

第7章 ブドウの無機栄養と水分生理
 ・ブドウとチッソ(1)
 ・ブドウとチッソ(2)
 ・ブドウとチッソ(3)
 ・ブドウとリンサン(1)
 ・ブドウとリンサン(2)
 ・ブドウとリンサン(3)
 ・ブドウとカリウム(1)
 ・プドウとカリウム(2)
 ・ブドウとカルシウム(1)
 ・ブドウとカルシウム(2)
 ・ブドウとカルシウム(3)
 ・フドウとマグネシウム
 ・ブドウとマンガン
 ・ブドウと鉄
 ・ブドウと硫黄
 ・ブドウとホウ素
 ・ブドウとモリプデンおよびコバルト
 ・プドウと銅および亜鉛
 ・水分の生理的役割
 ・水分の要求
 ・水分と発育
 ・水分の落差

第8章 ブドウと気候
 ・気候帯
 ・夏乾、中間、夏湿帯
 ・気候型
 ・栽培限界
 ・ブドウと日照・光線
 ・ブドウと日照
 ・ブドウと日照分布
 ・ブドウの日照強度
 ・巨峰ブドウと気温
 ・ブドウの温度較差
 ・異常気温
 ・プドウと日本の雨量
 ・温度障害
 ・4つの気候型

第9章 ブドウと土壌、地形
 ・土壌の構造
 ・土性
 ・土壌塩類
 ・土壌酸度とブドウ巨峰
 ・土壌温度
 ・方位と傾斜度
 ・平坦地(1)
 ・平坦地(2)
 ・傾斜地

 第10章 ブドウ園の開園計画
 ・経営の理想と目標
 ・選択と改造
 ・種苗の選択
 ・栽植の基本
 ・栽培密度と定植
 ・公害抵抗
 ・経歴性

第11章 ブドウの台木と接木
 ・台木の歴史
 ・台木の目標
 ・台木の抵抗性
 ・台木の種額
 ・接木変異
 ・接木効果の相殺
 ・喬性、矯性台
 ・接木(1)
 ・接木(2)
 ・接木(3)

第12章 ブドウの施肥
 ・施肥の重要性
 ・施肥の原則
 ・新しい施肥の考え方
 ・施肥設計
 ・発育条件と施肥
 ・施肥実践の要点

第13章 ブドウの剪定、整枝
 ・冬期剪定(1)
 ・冬期剪定(2)
 ・冬期剪定(3)
 ・冬期剪定(4)
 ・冬期剪定(5)
 ・冬期剪定(6)
 ・夏期剪定(1)
 ・夏期剪定(2)
 ・夏期剪定(3)
 ・夏期剪定(4)
 ・夏期剪定(5)
 ・夏期剪定(6)
 ・夏期剪定(7)
 ・欧米の整枝、日本の整枝
 ・整枝の形式
 ・整枝の変形
 ・棚作り法(覆蓋式整枝〉
 ・棚作りとその変形
 ・垣根作りとその変形
 ・棒作りとその変形

第14章 ブドウの栽培管理
 ・発育型と栽培管理(1)
 ・発育型と栽培管理(2)
 ・気候型と栽培管理
 ・地形と栽培管理
 ・土壌型と栽培管理
 ・特殊土壌と栽培管理

第15章 ブドウの土壌管理
 ・ブドウと土壌管理
 ・地力とプドウ(1)
 ・地力とブドウ(2)
 ・ブドウと土壌耕度(1)
 ・ブドウと土壌耕度(2)
 ・ブドウと土壌耕度(3)
 ・ブドウと有機質肥料
 ・ブドウと敷草
 ・ブドウと雑草管理
 ・プドウと灌水(1)
 ・ブドウと灌水(2)

第16章 ブドウの生理障害
 ・花振い(1)
 ・花振い(2)
 ・花振い(3)
 ・巨峰ブドウの単為結果(1)
 ・巨峰ブドウの単為結果(2)
 ・巨峰ブドウの単為結果(3)
 ・巨峰ブドウの単為結果(4)
 ・ブドウのフサガレ病
 ・ネムリ病(凍害)
 ・夏伸び、秋伸び
 ・枝枯病
 ・腫瘤(シュリュウ)病

第17章 ブドウの病害、虫害
 ・ベト病(露菌病)
 ・ウドンコ病(白渋病)
 ・コクトウ病(黒痘病)
 ・灰色カピ病〈ボトリチス菌病)
 ・パンプ病(晩腐病)
 ・褐斑病(褐点病)
 ・サピ病(錆病)
 ・モンパ病
 ・ペスタロッチア・ツルガレ病
 ・ウィルス病(1)
 ・ウィルス病(2)
 ・ウィルス病(3)
 ・ウィルス病(4)
 ・フィロクセラ
 ・ブドウトリパ
 ・カイガラムシ
 ・トラカミキリ
 ・ダニ
 ・ネマトーダ〈線虫〉
 ・防除設計

第18章 ブドウの温室、ハウス栽培
 ・歴史
 ・展望
 ・環境
 ・日照
 ・温度
 ・湿度
 ・温度管理
 ・灌水管理
 ・施肥管理
 ・休眠打破

第19章 ブドウ・巨峰の問題点
 ・果粒の生長肥大(l)
 ・果粒の生長肥大(2)
 ・果粒の生長肥大(3)
 ・果粒の生長肥大(4)
 ・果粒の生長肥大(5)
 ・果粒の生長肥大(6)
 ・ブドウの裂果
 ・ブドウの脱粒
 ・ブドウ果実の品質
 ・果房と果粒
 ・果粒の色調
 ・果粒の色素
 ・糖分の集積(1)
 ・糖分の集積(2)
 ・酸味
 ・果粉
 ・肉質と水分
 ・芳香
 ・渋味
 ・着色遅れ、成熟不良
 ・枝と根の成熟(1)
 ・枝と根の成熟(2)
 ・枝と根の成熟(3)

第20章 ブドウの栽培体系
 ・栽培体系(1)
 ・栽培体系(2)
 ・栽培体系(3)
 ・栽培体系(4)
 ・栽培体系(5)
 ・栽培体系(6)

第21章 ブドウとワイン
 ・ブドウとブドウ酒(1)
 ・ブドウとブドウ酒(2)
 ・ブドウとブドウ酒(3)
 ・ブドウとブドウ酒(4)
 ・ブドウとプドウ酒(5)
 ・プドウの一般加工
・主要文献
・索引

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序文


ブドウほど世界に広がり、あまねく作られ、あまねくたたえられている果物は、他にあまり見当たらない。

それは、白粉に満ちた色とりどりのあの果粒、小さいけれども互いに寄り添ったあの果房、それぞれ自己を主張していて他と共に生きる、緑と紅葉にかがやくあの葉のせいなのか。
いや、あの豊かな成熟した果実が発散する香りのせいか、いや、あるいは成熟した果実のかもしだす熱成したワインの芳醇さを想像できるからではないだろうか。

それは、いずれにしても一つや二つの事柄のせいではない。
それを生みだしているブドウ園の、ブドウ郷の美しい風景とともに、それを自然の中で見つめ、考え、研究し、労作し、またそれをワインにまで高めることに生涯を傾けてきた人身と、それらの美しさを永遠にあこがれつづけている消費者との結びつきによるものではないだろうか。

ところで日本のブドウの歩みは、世界のブドウに比べて必ずしも長い歴史をもっているとはいえない。
しかも日本のブドウ国の環境は、雨量が多いことなどから、必ずしも優れた適地とはいいにくい。
それに加えて、果樹園の地形と土壌は、平坦地ならびに火山灰土の比率が、戦後ますます高<、ブドウの育ちをゆがめやすい環境にしている。
つまり大作りだけにとどまらず、徒長的ドブヅル作りに、いつの間にか傾いている。

したがって日本のブドウは、着色と成熟がいまひとつ冴えない。
それなのに、そのままでまかり通っている傾向がある。

同じように日本のワインもまたその熟成がどこかで滞って、よき芳醇さとよき渋さにいささか欠けているきらいがある。

それならば、これらの問題を改めてゆかなければ、ブドウ果実の生産も、ワインの醸造も、正しい発展を続けることはむづかしい。

著者は、日本のブドウ果実とワインの質的改革、つまり成熟と熟成とを高い水準に高めなければならないと考え、それを主張し続けてきた。
そして、これを日本全土に実現すベく努めてきたし、いささか具現もしてきたつもりである。

そもそも、生食用大粒ブドウと醸造用小粒ブドウとは「品質で決定する」という点で共通性をもっている。
そこで前著書『巨峰ブドウ栽培の新技術』『ブドウ・巨峰の発育診断』に引き続き、さらに成熟と熟成の問題を中心課題と考え、この点から改めて見直そうとしたのが、この小著である。

民間研究者の置かれている立場は平坦ではなく、荊の道である。
しかし、幸いにして著者の30有余年にわたる実践を支持して頂いた全国各地の有志の方々のご好意と、さらにこの書を作成するにあたり博友社の方々の特別のご支援をえたことは、著者の最高の喜びとするところである。
ここに、心よりの謝意を表したい。

1985年夏
恒屋棟介

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小著の考え方


1)この小著は、ブドウの発展の歴史をいささか大切にした。
なぜならば、正しい歴史的経過を軽んじたとき、いつかは必ず退潮と荒廃が生まれると確信しているからである。

2)この小著は、ブドウの生活環境をいささか重視した。
なぜならば、日本の環境が湿潤型であることを、最適地とよく検討比較していないための誤りが、あらゆる面におきやすいからである。

3)この小著は、ブドウの生活史を重視した。
なぜならば、その考えなしにはブドウの正しい発育も、優れた果実も、ワインも一切存在しないと確信しているからである。

4)この小著は、ブドウの栄養生理化学(生化学)的な考え方を重視した。
なぜならば、それを軽んじ、分析的なものに迷わされるために、必要以外の資材(肥料と農薬)を投入し、複雑化し、かえって発育をゆがめ、抵抗性を弱め、果実の成熟をまずくしていると考えられるからである。

5)この小著は、プドウの発育診断を重視した。
なぜならば、今日、生産にたずさわる人々が個々に分析結果を出すことの不可能ななかで、しかも全体的な育ちのあり方をとらえることは、いよいよ良品生産にその必要さが加えられているからである。

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第2章 ブドウの種と品種


ブドウ巨峰の形質濃度
〈ヨーロッパの血が3/4、アメリカの血が1/4〉

巨峰ブドウ(石原センテ〉はヨーロッパブドウとアメリカブドウとの間に生れた(1942年)ブドウであることはおおよそ知られている。
しかしその親がどのようなものに由来し、どのような形質をもっているかなどとなると霧のなかにかくれてしまい、そのためにブドウ栽培者が当然考えたり、当然なさなければならないことすら放任し、自らそれを窮地にさそっていることも少なくない。

形質濃度

まず第一にどうしても知っておかなければならないのは、巨峰ブドウの形質濃度はヨーロツパ種が3/4、アメリカ種が1/4ということである。
これは明治、大正時代にはいってきた雑種ブドウに比べて一つの画期的なちがいであろう。
ところが、これの持っている特異さをあまり考えようとしていないのではないか。
これは巨峰群の形質濃度が古い種間雑種のブドウよりヨーロッパ種に近いことに無関心なためだろうか。

つまり形質濃度というのは雑種形質(形態と性格)は雑種の一方の濃度を分数で表わしたもので分母の値に比べて分子の値が1/2の場合は、いわゆる雑種であるが、3/4となるとヨーロッパ種の血(形質)が強くなるから、栽培もまたそのことを十分に考えなければ問題が次々にあらわれ、解決できない。

巨峰プドウの親(♂)センテニアル(Centennial)はヨーロツパブドウの純粋種で、アメリカ種(V.Labrusca L)の血は何一つまじっていない。

したがって品質は抜群に優れているが、雨、湿度に弱い。
そこで、雨にやや抵抗性をもっているアメリカ種系統の品種を配してみようということで石原早生がえらばれた。
これは純アメリカ種(V.Labrusca)ではなく、ヨーロッパ種(V.V)との種間雑種である。
つまり石原早生(大粒キャンベル・アーリー)は両極の中間的な形質をもっている。

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第2章 ブドウの種と品種


ブドウ巨峰倍数性
く巨峰ブドウの染色体数は一般ブドウの2倍〉

巨峰ブドウ(石原センテ〉は倍数体ブドウといわれている。
いったいこれは何を示し、何を意味するものであろうか。

巨峰ブドウや巨峰群ブドウが多くの在来種に比べて栽培しにくいといわれるのは、さきにふれた形質濃度にも大きくかかわっているが、いま一つその大きな理由は、何といっても、倍数体ブドウの故にほかならない。

染色体(Chromozome)
細胞の核のなかにあって、植物の形質に大きな関係をもっている。
そして染色体数は植物の種類一品種によって一定していて、その品種の全体的な形、大きさも左右し、さらに個体の性格をすべて内に包んでもっているといえる。
ところで根、枝、葉などの体細胞(栄養細胞)は、性細胞(生殖細胞)の2倍である。
その体細胞の染色体数を2nで示し、これを全数(Diploidnumber)とよび、性細胞のもつ半分のものを半数(Haploid number)と呼びnで表わすこととしている(生物学)。

倍数体ブドウ
倍数体とは何だろう。
ブドウの体細胞の染色体数(2n)が普通38なのに、巨峰ブドウ(群〉は76なのであって2倍の染色体数をもっているという点で、世界でもブドウの栽培品種としてめずらしいものといえる。

巨峰ブドウ(石原センテ)の作出者大井上康が、これの育種(品種改良)にあたって倍数体と倍数体のなかで、新しい品種改良をねらった点はきわめて画期的なことではないだろうか。
それだけに親(母樹)の導入に数年もの失敗を重ねられたが、これは南半球から北半球の日本への道は遠くかつ赤道直下を船で輸入するしかなかったことを想いみよう。
この苦闘の歴史を知ることこそ、巨峰産業の第一歩といえよう。

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