『微量栄養素と施肥設計』                   
             現在品切れとなっています。再販準備中です。

 

『微量栄養素と施肥設計』


 
  この本は、作物の健康な発育にとって微量栄養素が重要であることに50年以上前から着目し、それぞれの微量栄養素のはたらきや欠乏症状などを解説しています。ただし、この書籍の名称は「微量栄養素の施肥設計」ではなく、「微量栄養素と施肥設計」です。微量栄養素に焦点をあてつつも、微量栄養素も多量栄養素も含めて論じた栄養週期理論に基づく肥培管理の総括的な解説書となっており、40品目以上の作物について標準的な施肥の手順や施肥量が解説されています。さらに、一部の作物については施肥に限らず、栽培管理全体が記述されています。対象とした作物に対する記述はそれぞれ簡潔ですが、栄養週期栽培の手順を知る上で役に立つと思います。


 

目 次
 
第1章 植物の栄養と微量栄養素
 (1)微量栄養素とはどんなものか
 (2)植物に必要な栄養素
 (3)水耕培養液と徴量栄養素
 (4)栽培他物の化学的組成
  ①水分
  ②乾物
  ③有機物
  ④無機物
 
第2章 植物元素及び微量栄養素のはたらき
 (1)植物元素の分類
 (2)植物元素のはたらき
  ①窒素
  ②燐酸
  ③加里
  ④石灰
  ⑤マグネシウム
  ⑥硫黄
  ⑦ケイ素
  ⑧ナトリウム
  ⑨塩
  ⑩アルミニウム
   ★植物の重要元素と生理病一覧
 (3)微量栄養素のはたらき
  (Ⅰ)マンガン(Mn)
  (Ⅱ)ホウ素(B)
  (Ⅲ)亜鉛(Zn)
  (Ⅳ)鉄(Fe)
  (Ⅴ)銅(Cu)
  (Ⅵ)モリプデソ(Mo)
  (Ⅶ)コパルト(Co)
  (Ⅷ)ヨード
  (Ⅸ)ニッケケル(Ni)
   ★徴量栄養素の要覧
 
第3章 作物の栽培と微量栄養素
 (1)作物の発育と微量栄養素
 (2)微量栄養素の施肥
  ①施肥の時期
  ②施肥の量
  ③施肥の方法
 
第4章 施肥設計
 (Ⅰ)果樹類 落葉果樹
   1:ブドウ
   2:リンゴ
   3:ナシ
   4:モモ
   果樹類 常緑果樹
   5:ミカン
 (Ⅱ)禾穀類
   1:イネ
   2:オカボ
   3:ムギ
 (Ⅲ)野菜類
  1:果菜類
    (1)トマト
    (2)スイカ
    (3)イチゴ
  2:葉菜類
    (1)ハクサイ、キャベツ
    (2)ホウレン草
3:根菜類
   (1)ダイコン
    (2)タマネギ
    (3)ナガイモ
    (4)ジャガイモ
 (Ⅳ)マメ類
    (1)ダイズ
    (2)ラッカセイ
 (Ⅴ)花卉類
    (1)バラ
    (2)球根類 スイセン、チューリップ
 (Ⅵ)特用作物
    (1)タバコ
    (2)コンニャク
    (3)イグサ
    ★ボルドー液の新しい呼び名
 
第5章 葉面施肥 (Ⅰ)葉面施肥
  (1)葉面施肥の重要性
  (2)チッ素(尿素)の葉面施肥
  (3)リン酸、カリ、カルシウムの葉面施肥
  (4)リン酸吸収と糖分の添加
 
第6章 家畜・人体とミネラル
 (Ⅰ)家畜生理とミネラル
  ①カルシウムと家畜
  ②リン酸と家畜
  ③カリウムと家畜
  ④ナトリウム、塩素と家畜
  ⑤マグネシウムと家笛
  ⑥鉄と家畜
  ⑦銅、モリブデンと家畜
  ⑧コバルトと家畜
  ⑨マンガンと家畜
  ⑩亜鉛と家畜
  ⑪ヨードと家畜
  ⑫ニッケル、臭素、弗素、砒素と家畜
 (Ⅱ)人体生理とミネラル
 
付説
 ミネラル欠乏と診断
  (1)落葉果樹の養分欠乏
  (2)柑橘類の養分欠乏
  (3)野菜と養分欠乏
  (4)花卉植物の養分欠乏
 
〈補遺〉
ナス
ブロッコリー
インゲンマメ
コカブ
タカナ
レタス
パセリ
里イモ
ハナショウブ
カキ
サクランボ
ビワ
キウイ
トウモロコシ
ハス(レンコン)
チャ(茶)
ハウスミカン
サツマイモ
 


序 文

 
 微量栄養素がようやく時代の光をあびて来た。
 しかしまだその研究はポット試験の域をぬけきれなかったり、また、その技術指導は施用の量がはなはだ多かったり、実用の場面にほど遠い。
 しかも、一つの要素をゼロにした研究や、その結果を重んじているため、発育との結びつきが軽んじられいるばかりか、気候や土壌の変化につれて生れてくる……ゆがんだ発育を変更させるといった、技術的なとり上げ方がはなはだよわい。
 
 そこで著者らの研究所や日本全土の圃場で、20年来、実用化して来た微量栄養素を、今こそ「実験室から圃場へ」「生物学の知見から栽培技術へ」ひき入れる役を、はたさなければならないと強く考えた。
この小著はこのための一つの試みである。
 
 さて、この書の要点を1、2のべれば、こういうことになろうか。
 
イ〉ここにのべる微量栄養素は作物の必須元素である。それらは歴史的に、どういう研究と実験にもとづいて重視されるようになったか。
ロ〉微量栄養素は生理的にそれぞれ単独的なはたらきをもっている。だから、その単独的な効果を十分あらわすには、作物の発育、つまり発育生理、栄養生理や、それを発揮させるための、他の手段(技術〉を無視するわけにいかない。
 ハ〉作物の発育はいろいろな外部条件……気候、土、病菌、虫などでもゆがめられやすい。だから、どのような条件の下でも、内部的にしっかりした体質にすることがのぞましい。そのためにはゆがんだ発育を、正常な発育に変更するという手段が重んじられなければならない。微量栄養素はここに、一つの大きな目標をもっている。
 ニ〉栽培技術は経済行為であるから、農民の経済いわば、生産コストからはなれでは成り立たない。だから微量栄養素をどう施したら生産コスト……肥料代、農薬代などを引下げられるか。 そして徴量栄養素をどう使ったら、経済的収穫量を引上げられるか、などに重点をおいたつもりである。
 
  読者諸氏の真摯な研究と、それにもとづく実践を期待したいところである。

恒屋棟介
1955年7月1日

 

改訂増版にあたり

 
 この小さな書が、世に出て、すでに37年の年月をへた。
 すべてイバラの中の研究であり、イパラの中の出版だから、思いのままにいかない。
 それにもかかわらず、この書はついに再び第7版をせまられるに至った。
 
 ところで、その後、微量栄養素の研究は、かなり進んできたので、さらに筆を加えて、改訂増版を重ねることにした。
 
 この小著の目ざすところを学びとり、これを実践にうつし、すぐれた食品の生産と経営の発展に活用されることを、心からいのる。
 
 このことによって、植物栄養のヒズミにメスが加えられ、栽培植物の発育生理がただされ、健康な発育型がのぞまれるならば、そこにこそ、すぐれた食品が生産され、日本人の体位と健康との上に変革が生れ、日本人の新しい頭脳とそれによって築かれた文化が生れるものと考える。
 

1992年11月10日
著者

 

新装版の発行にあたって

 
 本書、「微量栄養素と施肥設計」は、昭和30年に初版が発行され、昭和33年に改訂版が出て、平成14年に改訂第9版が出版されている。その改訂版の在庫がなくなってきたことにより、新たに印刷をすることになった。新たな印刷に当たっては、文字を新規に打ち込んだ。幾度も再販がなされてきたとはいえ、元々が昭和30年の発行で、およそ60年前であり古い言い回しや文字が見られ、また、一部に表記の不統一、誤記なども見られた。そのため、できる範囲で修正を行った。文章の中身については、原則変更はしていないが、一部の図表や現在使われていない酢酸銅や酢酸銅を使用したV10号と称する栄養殺菌剤に関する記述は削除した。さて、微量栄養素については、現在では様々に利用されるようになっているが、栄養週期栽培では早くから注目し、施肥技術に関する研究開発を行ってきた。この書では、その成果をおよそ60年前に標準的な施肥設計としてまとめている。このような微量栄養素の利用は、栄養週期栽培の特徴のひとつとなっている。
 ところで、この書籍の名称は「微量栄養素の施肥設計」ではなく、「微量栄養素と施肥設計」である。微量栄養素に焦点をあてつつも、微量栄養素も多量栄養素も含めて論じた栄養週期理論に基づく肥培管理の総括的な解説書である。さらに、40品目以上の作物について標準的な施肥の手順や施肥量が解説されているが、作物によっては、施肥に限らず、栽培管理全体が記述されている。
 「新栽培技術の理論体系」(大井上康著)が栄養週期栽培を理論的な面からまとめあげた書とすれば、こちらは栄養週期栽培の実践の書である。対象とした作物に対する記述はそれぞれ簡潔ではあるが、栄養週期栽培の方法を知る上では役に立つと思う。
 なお、作物ごとに施肥量が表示されているが、尺貫法とともにメートル法で「3.75g~7.5g」とか「3.75kg~7.5kg」のように表記されている。これだけを見ると細かい数値設定がなされているように見える。しかし、もともと尺貫法を使っていたものをメートル法に直しているので、数値は厳密なものではない。数値にはあまりこだわらずに、施肥の基本的な視点を読み取っていただければ良いと思う。
 栄養週期理論を提唱した大井上康氏はその著書「作物栽培技術の原理」の最後に以下のように述べ、栄養週期栽培がマニュアル化できるものではなく、携わる人々が原則を理解した上で、それぞれのケースで判断することが必要であることを述べている。
 
 「もちろん栄養週期は、ものを作る場合の物の見方と考え方とを正しくすることに重点があるのであって、それぞれがその原則の上に立って研究することから作り出されなければならない。栄養週期の軌道から外れない限りそれぞれ機動性を発揮して融通の利いた栽培技術を生み出さなければならない。栄養週期栽培法は一つの型にはまったものではなくて、各自の技量を充分に発揮できる性質のものなのである。」
 
 このように栄養週期栽培は、個別のケースで施肥の方法や施肥量に違いがあり、栽培する人がそれぞれのケースに応じて判断し対応していくという立場である。とはいうものの、おそらく多くの人たちから標準的な施肥の手順や施肥量が知りたいという要望があったのであろう。本書には施肥の量が記されている。栄養週期栽培の基本的な姿勢からみても、本書に記されている施肥量はあくまで参考としてみるべきものである。

 微量栄養素の研究の発展は近年著しく大きな進歩があり、本書には古いところもあるが、基本のところは現代の知識とそう矛盾するものではないと思う。この書から、微量栄養素を含む栄養週期栽培の施肥の考え方を具体的な事例を通して知っていただくことができ、この新装版が多少なりともそのことに貢献できるのであれば幸いである。
                                                       2017年10月1日 恒屋冬彦

 

第1章 植物の栄養と微量栄養素

 
 
(1)微量栄養素とはどんなものか
 
植物は自分の体を育てたり、自分たちの仲間をふやすため……大切な子実〈種子)をみのらせるため……人や動物などとともに、養分(栄養素)を外部から吸収し、同化するという特性をもっている。
 
これらの栄養分は、植物では1つは根から、他の1つは葉から、体の中にうけいれていくことは言うまでもない。
 
ここに触れたのは山野や路ばたに自生する植物をふくめ、ひろく植物の場合をのべたが、これをある一定の目的で、一定の土地につくる栽培植物(作物)の場合は、自然に育つ植物とちがって、必要な養分がつぎつぎに作物の収穫体として他にとり去られる。
そのために、その土地は長くいろいろな作物をつくるにつれて、作物の大切な栄養分が少なくなったり、またなくなり勝ちになる。
 
さて、植物を栽培することにより、自分の生活のかてをえ、経済の前進を計らなければならない農業人は、土地をやせないように、肥料をほどこし、地力作りに重点をおいて来た。
だから今では栽培植物の収量はそこに施される肥料や、この肥料でできた地力によって決まるようにさえ考えるようになった。
言葉をかえると、収量は肥料と地力に比例するという、行きすぎた信仰さえ生れて来たのである。
 
しかし、こんなことは生物を生物として正しく見る自(生物観)が、農業人にあるならば、それが一つの誤りであることは言うまでもない。それは、つぎの事実でも理解できるだろう。
 
イ)作物の場合
肥料分の多い町の流水の入るような水田や、少し多肥で育てたイネは、葉や茎はすばらしく出来るが、花のつきや、みのりは悪く、低温や病害、虫害におかされ、収量は上らないばかりか、品質もひどくわるい。
 
ロ)家畜の場合
濃厚な飼料をあたえ過ぎると、家畜……プタ、ウシ、ヤギなどは体は太く肥えて育つが、繁殖障害をおこしたり、子をもっても流産したり、死産におわったりする。
プタの場合など、子の数が少なく、しかも不健康な子が生れる。
 
これらの例をみても、一ばんによい肥料とか、よい地力といわれているものが、いつもよい結果をよぶものでないことがわかる。
具体的に言えばこのような場合、作物の必要な栄養素が必要な段階に根から必要なだけ吸収されたかどうか、また不必要な段階までも吸収されはしなかったか、ここらに問題が残ってはいないだろうか。
また栽培植物はふつうに知られているチッ素、リン酸、カリだけで体ができ、健康をたもつというわけにもいかない。
この点あたかも人がよい体位と健康をたもつためには、澱粉、蛋白、脂肪だけで、それらをたもつことが出来ないと同じである。
いわば、人や家畜の場合では、ピタミン(A、B、C、D……)や無機塩類(リン、カリ、カルシウム、ナトリウム、塩素)はその必要量が少ないにもかかわらず、常に大切な役割をはたしているという事実からも十分に考えられる。
 
これらを考えると、生物の体にとって、量の上でどんなに吸収量が多いからと言って、それだけで発育や健康の決め手になるとは言えないばかりか、ごく僅かな要素(物質)が生物の発育や健康を決定するということをも考えたい。
 
植物の場合でもそうであって、その植物にとって、量の上では少ししか必要でないにもかかわらず、その植物の生長や花つき(分化)などに欠くことの出来ない物質がある。
そしてその微量の物質こそ、植物の複雑な機能に大きな関わりをもっていて、そしてそれなしには植物という生物の統一された発育運動はできない。
こう考えると、植物の健康な発育をもとめ、ここからよい収量と品質を高めようとするならば、こうした微量栄養素を忘れさるわけにはいかない。・・・・・・・