栄養週期栽培におけるカルシウムの活用

  石灰に含まれるカルシウムの役割というと土壌の酸度の中和が最も知られています。しかし、栄養週期栽培では、それだけではなくカルシウムは作物の体内で糖の生成と移行、体内の酸の中和、無害化を行うなど多くの機能を有していると考えてきました(大井上2011、恒屋2017)。1945年に初版が執筆された大井上康氏の「新栽培技術の理論体系」にそのことはすでに記されています。この中で、カルシウムが糖の生成に関係する研究事例を示しています。「作物の栽培に当たり、発育の後半の段階で石灰を施すことは、栄養的な一種の仕上げとして重要である」と述べています(大井上2011)。
  近年、農村漁村文化協会(農文協)が石灰の効用を提唱しています。
  農文協が発行する月刊誌「現代農業」には「農文協の主張」というコーナーがあり、平成2008年6月に石灰防除に関する主張が掲げられ、石灰を土壌改良剤と見るだけではなく、栄養素や防除機能にも目を向けるべきであることが記されています(農村漁村文化協会2008)。
  このような観点から石灰に関する別冊や特集記事が見られ、「現代農業」誌の別冊「農家が教える石灰で防ぐ病気と害虫」(農村漁村文化協会2010)、2017年8月の現代農業誌の「夏の石灰欠乏に挑む」、10月号「石灰をバッチリ効かせる」という小特集、11月号には「石灰で味と色がよくなる、強くなる(果樹)」などがありました。
  カルシウムと関連して、現代農業誌は栄養週期栽培についても取り上げています。2017年8月の現代農業誌には、栄養週期理論が紹介され、「石灰追肥で栄養生長から生殖生長に切り替わる-『栄養週期理論』の教え」という記事が掲載されてました。また、この号には、農業偉人伝として大井上康氏が紹介され、「栄養週期理論」についても簡単な図により解説されていました。さらに、11月号には「石灰で味と色がよくなる、強くなる(果樹)」という小特集がくまれ、栄養週期栽培を行っている高知県の宮地秀憲氏の記事が掲載され、栄養週期理論の解説とともに、土佐文旦に対する石灰の利用方法を紹介していました。この号の編集後記には次のような記述が見られます。
 
▼石灰で果実の味や色がよくなる(198頁)。アカデミックな研究では不明な点が多いが、石灰使いにとっては常識だ。 「何よりも確かなものは事実である」。宮地さんがそらんじる大井上康の言葉である。
 
  現代農業誌では、栄養週期栽培では共通した認識となっている石灰(カルシウム)が穀物や果実の味や色を良くするという記事が多くなってきたことが注目されます。栄養週期栽培では、作物の「成熟」にカルシウムが影響を及ぼすことを70年以上前から論じかつ実践してきました。こういうこともあり、日本巨峰会では、葉面散布を考慮したカルシウム肥料を販売しています(栄養素のコーナー参照)。
  ただし、カルシウムがどのようなメカニズムで上記のような現象を引き起こしているのかは、まだよくわからないようなので、今後の研究の成果に期待しています。
 
《参考文献》
・農村漁村文化協会. 2008. 現代農業6月号.
・農村漁村文化協会. 2017. 現代農業8月号.
・農村漁村文化協会. 2017. 現代農業11月号.
・大井上 康. 2006. 「現代用語復刻新版 家庭菜園の実際」. 農村漁村文化協会.
  (原著:大井上康. 1946. 「家庭菜園の実際」. 旺文社)
・大井上 康. 2011.「新栽培技術の理論体系 再改訂版」. 日本巨峰会.
  (初版は1945年)
・恒屋棟介. 2010. 栄養週期理論による石灰追肥の考え方.
  「農家が教える石灰で防ぐ病気と害虫」(別冊 現代農業) .p.146-148. 農文協.
・恒屋棟介. 2017.「微量栄養素と施肥設計」(新装版) .日本巨峰会.
  (初版は1955年)