栄養素のはたらき
《マグネシウム Mg》

理農学研究所
2021年5月

★特徴とはたらき
 マグネシウムに関する特徴や働き、欠乏症状などについて、いくつかの文献に基づき次の表に整理してみました。

 
 
 表を見て、気づくことを以下に箇条書きにしてみました。

〇この表の全体を眺めて、すぐに目に入るのは緑色植物の葉緑素(クロロフィル)の構成元素であることです。マグネシウムはクロロフィルの分子構造(テトラピロール環)の中心に位置しています。光合成を行う上で、とても重要な成分であるとがわかります。
〇次いで、解糖系、TCA回路、窒素代謝、タンパク質合成、ATPの働きなど様々なことに関与していることが読み取れます。「補因子」とか「補酵素的」などの言葉が使われているように、補助的な役割を果たしているようです。外部から取り込んだ物質を合成していく過程(同化)、外部から取り入れた有機物あるいは無機物を水やアンモニアなどに分解しエネルギーを得る過程(異化)の双方に関与しています。
〇また、複数の文献に記されているように、リン酸の吸収や体内の移動に関与しているようです。

 このようなことは、概ね栄養週期栽培に基づく施肥設計をとりまとめた「微量栄養素と施肥設計」(表の上段)にも記されています。
 
★欠乏症状
 次いで、欠乏症について見てみます。
 ほぼすべての本に黄化・白化(クロロシス)のことが書かれています。「微量栄養素と施肥設計」には、マグネシウムを欠くと黄化現象(クロロシス)、リン酸の利用がうまく進まない、花芽が不足,受精もすすまないなどの現象が起こるとしており、リン酸の吸収を高める上でも注目しています。また、栄養週期栽培では、栄養生長期の正常発育のために使用することが提唱されています。「ミネラルの働きと作物の健康」(渡辺2009)には、欠乏により活性酸素が増加し、それがクロロシスの発生に関与することが記されています。
 また、ブドウの欠乏症は、「微量栄養素と施肥設計」の本文には次のように記されています。
 
(イ)ブドウのMg欠乏症は発育初期には現れず、発育交代期(6月末ごろ)から現れる。
(ロ)結果枝(ナリエダ)、発育枝の元葉に多くあらわれる。
 
 ただし、このようなマグネシウムの欠乏症がマンガン,鉄,カルシウム,カリなどの欠乏が原因の場合もあること、ブドウの発育が徒長的に育つような多チッ素,多湿なときにも多いことが記されています。対策として、マグネシウム欠乏は一般に雨の多いときや土が酸性のとき発生しやすいので、土壌にカルシウム分(石灰)を適量あたえるのが良いと記しています。
 
★栄養週期栽培での施用法のあらまし
 下記のように、健全な栄養生長を実現するために使うのが、栄養週期栽培における主な利用法です。
《適 用 例》
・栄養生長期の正常発育を求めるため、チッソを少なくして発育をうながす。
・交代期に、栄養生長が弱すぎて元葉、下葉が黄変する場合。特に、干ばつ年、傾斜地、ヤセ地の場合に必要。
 
≪参考文献≫
・Jones J. Benton. 2012. Plant Nutrition and Soil Fertility Manual. CRC Press.
・加藤哲郎. 2012. 「知っておきたい 土壌肥料の基礎知識」. 誠文堂新光社.
・間藤 徹. 2010. 「植物栄養学」(第2版). 文永堂出版.
・恒屋棟介. 2017. 「微量栄養素と施肥設計」(新装版). 日本巨峰会.(初版は1955年発行)
・米山忠克他. 2010. 「新植物栄養・肥料学」. 朝倉書店.
・渡辺和彦. 2009. 「ミネラルの働きと作物の健康」. 農村漁村文化協会.