栄養素のはたらき
《ホウ素 B》

理農学研究所
2021年5月

■はじめに
 ホウ素は植物の体内に微量で存在する微量栄養素ですが、植物の生育に不可欠な必須元素です。
 このページでは、作物栽培におけるホウ素の働きと、欠乏症状についていくつかの書籍に記された情報を整理してみました。次表に栄養週期栽培の書籍(恒屋2017)とその他の市販されている作物の栄養生理や栄養素に関する書籍の記載を要約して掲載しました。
 

 
■ホウ素の働き
○栄養週期栽培以外の一般的な書籍
 ホウ素(B)の働きについては、栄養生理学の専門書(間藤他2010、米山他2010、Jones2012)では、細胞壁を構成するペクチンとの関連、RNAを構成するウラシルの合成に関与すること、花粉の発芽生長に関わることなどが記されていますが、作物栽培との関わりの深い事柄については、あまり書かれていません。また、ホウ素の働きの仕組みはよくわかっていないと記しているものがあります。
 全体を通して眺めてみたときに、比較的多く記されている事柄は、ペクチンの合成に関与すること、細胞壁の維持管理に関係することです。また、花粉の発芽や生長に関係することも複数の書籍に記されています。この他、「ミネラルの働きと作物の健康」(渡辺2009)には、病害虫に対する効果の記述があります。
○栄養週期栽培の記述
 栄養週期栽培の視点から書かれている「微量栄養素と施肥設計」(恒屋2017)には、上記の書籍と同様に、ペクチンの合成、病害虫に対する効果などの記述があります。さらに、他の文献にみられない事項として、糖分の合成、花芽の分化、生殖生長との関わり、健康化などの様々な事柄が記されています。花芽の分化成熟に関しては、ブドウの花振い防止も含まれてきます(花振い防止については「ホウ素がブドウの花振いに及ぼす効果」参照)。
 
■ホウ素の欠乏症状
 欠乏症状については、ホウ素が細胞壁の形成に関与していることが関連していると思いますが、作物の生長阻害、異常、枯死などが記されています。このほか、「微量栄養素と施肥設計」(恒屋2017)には、糖分低下、成熟の阻害、結実不良などのことも記されています。
 
■栄養週期栽培におけるホウ素の位置づけと利用法
 ホウ素については、学術的な文献では、ホウ素のことがよくわかっていないためか、あまり多くのことは記されていません。栽培における効果に関する学術的な報告は多くはないようです。
 他の栄養素と同様ですが、ホウ素について農学専門書や論文に書かれていることは、基礎的な植物生理学的知識であったり、欠乏状態や過剰における作物の反応であったりということが多いようです。欠乏や過剰な状態における作物の反応を知ることで、その栄養素の役割を把握しようとするのが、作物栄養学における一般的な科学的手法ということになっているようなので、それからわかること以上のことはあまり語られないようです。
 一方、栄養週期栽培の場合は、欠乏状態や過剰な状態だけでなく、通常の生育状態の中で、個別の栄養素がどのような働きをするかに着目します。「欠乏症状を調べることに意味はあるが、これは病気を調べていることであって、栄養素の有する個別の効果を知ることには必ずしもならない」と考えています。このため、既存の文献、圃場における実験・観察、生産の現場における実績などにより得られた知見を、通常の状態における効果の視点から読み取り、栽培に生かそうとしています。日本理農協会(日本巨峰会前身)の会員が、かつては4千人程度いましたので、様々な生産地における実践の結果について多くの情報交換がなされ、実践に反映されていたといえると思います。このようなことから、「はたらき」に関する情報が多くなるという面はあると思います。
 そして、ホウ素については、糖分の合成、植物の健康化、発育の正常化、生理病予防、花芽の分化成熟、生殖生長強化(ブドウの花振い防止その他)、ウイルス、病虫害に対する耐性獲得などの効果があると考えています。
 
■栄養週期栽培におけるホウ素肥料の利用
 こうして、施肥にホウ酸肥料を利用し、また、販売もしてきました。これを、経根施肥や葉面散布で利用してきました。なお、栄養週期栽培では、葉面散布においては、ホウ素、マンガンなどの微量栄養素は、2,000倍程度に薄めて利用しています。また、その他の葉面散布剤(リン酸カルシウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウムなど)も通常、1,000倍以上に薄めて利用します。一般に、肥料は多めになりがち、液肥にする場合は濃度が高めになりがちですが、そうならないように配慮しています。
 
≪参考文献≫
・Jones J. Benton. 2012. Plant Nutrition and Soil Fertility Manual. CRC Press.
・加藤哲郎. 2012. 「知っておきたい 土壌肥料の基礎知識」. 誠文堂新光社.
・間藤 徹・馬 建鋒・藤原 徹編. 2010. 「植物栄養学」(第2版). 文永堂出版.
・三井信午監修. 1976. 「最新 土壌・肥料・植物栄養辞典(増補版)」. 博友社.
・大井上 康. 2011.「新栽培技術の理論体系 再改訂版」. 日本巨峰会.
・恒屋棟介. 2017. 「微量栄養素と施肥設計」(新装版). 日本巨峰会.
・米山忠克他. 2010. 「新植物栄養・肥料学」. 朝倉書店.
・渡辺和彦. 2009. 「ミネラルの働きと作物の健康」. 農村漁村文化強化.